二重敬語って何?意外と知らない具体的な定義



二重敬語という言葉を聞いたことがあっても、実際の定義を知らない方は多いのではないでしょうか。

今回は、文化庁と言語学者の定義を基にした二重敬語を解説します。

現代における二重敬語の定義

現代の二重敬語は二つの規則から成り立っています

様々な敬語の資料を読んだ結論として、文化庁の「敬語の指針」の定義である
一つの語に対し、同じ種類の敬語を重ねたもの」に「謙譲語+させていただく」を加えたものが二重敬語に該当します。

一つの語に対し、同じ種類の敬語を重ねたもの

動詞と動詞の間に「て」が入っているものは二重敬語ではありません

2007年に文化庁が公開した「敬語の指針」において、二重敬語は以下のように定義されています1

一つの語について,同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」という。

ここでの「」とは、動詞や名詞、形容詞などの「品詞」を指します。
ちなみに「名詞+する」「名詞+させる」などは「名詞」と「する」で分けず、「名詞+する」で一語とみなします。

また、「一つの」という点も重要で、例えば「おっしゃっていらっしゃる」は「言う」と「居る」の尊敬語である「おっしゃる」と「いらっしゃる」を「て」で繋げたものなので、二重敬語ではありません2
(とはいえ長いので、こだわりがなければ「おっしゃっている」がおすすめです)

ちなみに敬語の指針において、謙譲語

  • 謙譲語I
  • 謙譲語II丁重語

に分かれているので注意が必要です。

例えば「いたします」は丁重語なので、「拝見いたします」や「頂戴いたします」は謙譲語I丁重語の組み合わせです。
なので二重敬語ではありません

以上を踏まえた上で、文化庁の定義における二重敬語は以下のものがあります。

二重敬語元の言葉組み合わせ
おっしゃられる言う尊敬語「おっしゃる + 〜れる」
お読みになられる読む尊敬語「お読みになる + 〜れる」
ご覧になられる見る尊敬語「ご覧になる + 〜れる」
お越しになられる行く
来る
尊敬語「お越しになる + 〜れる」
お帰りになられる帰る尊敬語「お帰りになる + 〜れる」
いらっしゃられる来る
居る
尊敬語「いらっしゃる + 〜れる」
お承りする承諾する
聞く
謙譲語「承る(うけたまわる)+ お〜する」
ご拝見する見る謙譲語「拝見する + ご〜する」

このように、日常的に使ってしまいがちな二重敬語は尊敬語が多く、頭に「」または「」を、最後に「れる」を付けた形がほとんどです。

慣習的にOKな二重敬語

OKを手で表した写真

「敬語の指針」には習慣として定着している(ので問題ない)二重敬語として、以下の敬語が載っています。

  • お召し上がりになる
  • お見えになる
  • お伺いする
  • お伺いいたす
  • お伺い申し上げる

例外として「謙譲語+させていただく」も二重敬語

「連絡させて」と「いただく」を別々の動作で示したイラスト

「○○させていただく」は「○○さ」「せ」「て」「いただく」の四語で構成されているものの、「させていただく」の研究をなさっている言語学者の椎名美智氏は「伺わせていただく」のような敬語が二重敬語であるという解釈で本を書いています3

「させて」は「許可」を意味するのですが、現代では「させてください」にはその意味があるにも関わらず、
「させていただく」になると消えるという不思議な状態になっています。

連絡する許可をください」という意味で「連絡させてください」と言う人は多いものの、
許可をいただいたので連絡します」という意味で「連絡させていただきます」と言う人は少ないですよね。
許可の有無に関係なく、「連絡します」を丁寧に言うために用いている場合がほとんどです4

なので、語として「連絡さ」「せ」「て」「いただく」に分けることが出来ず、実質「連絡させていただく」で一つの語と化しています。
謙譲語+させていただく」は二重敬語だと考えるべきでしょう。

この定義における二重敬語は以下のものがあります。

  • 伺わせていただく
  • お話しさせていただく
  • お休みさせていただく
  • 申し上げさせていただく
  • 拝見させていただく
  • 頂戴させていただく

二重敬語って何が問題なの?

「おっしゃられる」と言われて怒っている人のイラスト(実際にはそんな人はいない)

二重敬語が失礼である理由について、詳しく解説しているものは見つかっていません。
敬語の指針には「一般に適切ではないとされている」と書いているのみで具体的な説明は無く、失礼であるとも書いていません。

また、学校で古文を学んだ方はご存知だと思いますが、二重敬語は「最高敬語」として、格別に敬意を込めたい相手に用いる敬語だった時代もありました。

なので実際のところ、現代の敬語において「二重敬語は失礼」だと明確に言える根拠はありません。
くわえて私的な話になりますが、個人間で「◯◯は二重敬語だから失礼だよ」と注意しているのを見たことも、されたという話を聞いたこともありません。

以上を踏まえると、二重敬語は失礼と言うほどではなく、「不自然だから使わない方が良い」程度のものと考えるべきだと思います。

そもそも一つの語に同じ種類の敬語を重ねてしまっても、相手に敬意を示そうとする意思は伝わりますよね。
長く仰々しい言い回しになってしまうため避けるべきではありますが、「二重敬語は失礼だから駄目は大げさです。

頻繁に用いると指摘を受けるかもしれませんが、会話でたまに言ってしまうくらいで相手が怒ることはまず無いでしょう。
また、「させていただいてもよろしいでしょうか」のように、二重敬語ではない不自然な言い方は数多くあります。

二重敬語かどうかを気にするよりも、不自然なくらい長い言い回しにならないように注意する方が、適切な敬意の簡潔な敬語に出来ると思います。

二重敬語だと言われやすい敬語

スマホの横にCheck!!と書かれた紙がある写真

前述した「拝見いたします」や「頂戴いたします」の他にも、様々な本や記事で二重敬語だという説明がされている敬語はいくつかあります。

「しましたでしょうか」

「いかがしましたでしょうか」は正しい敬語です

「した」を「しました」に、「か」を「でしょうか」に変えた丁寧語ですが、動詞の「した」と助詞の「か」の組み合わせなので二重敬語ではありません。

相手のことであれば尊敬語にした「なさいましたか」に、自分のことであれば謙譲語の「いたしましたか」にすることも出来ます。

「お願い致します」

「お願い致します」は歴史ある正しい敬語です

「お願い致します」は二重敬語ではなく、由緒正しい敬語です。

「お〜致します」は謙譲語の形の一つで、「お願いします」よりも敬意の高い表現です。
歴史も古く、江戸時代には「御〜致す」の形で用いられていました5

また、「お〜致します」と「お〜いたします」の意味に違いはありません。

「何卒」

「何卒」自体は敬語ではありません

何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます」など、「何卒」の後に謙譲語を続けることを二重敬語と解説している本もありますが、
「何卒」は強くお願いする際に用いる強調表現であり敬語ではないため6、付けても二重敬語にはなりません。

「何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます」は相手に対して格別なお願いをする時に用いる、非常に敬意の高い敬語表現です。

「社長様」

「社長様」は二重敬語の可能性がありますが、そもそも日本語として間違っています

社長様」は、「社長」が尊敬語とほぼ同義である「尊称」なのにも関わらず、名詞を尊敬語にする「様」を付けているため、日本語として間違いです。
両方とも付けたい場合は、「社長の○○様」のように、尊称と様を分けて言います。

尊称に「様」を付けることは二重敬語の可能性がありますが、それ以前に誤った日本語の使い方であるためか、二重敬語かどうかについて言及している本は見つかっていません。

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出典


  1. 敬語の指針 p30 ↩︎

  2. 敬語の指針では「敬語連結」と呼んでいます(p30)。
    「多少の冗長感が生じる場合もあるが,個々の敬語の使い方が適切であり,かつ敬語同士の結び付きに意味的な不合理がない限りは,基本的に許容されるものである。」とのことです。
    少し分かりにくい書き方ですが、「長々しい敬語でも、ちゃんと尊敬語謙譲語を使い分けていて、日本語として間違った繋がり方じゃなければOK」ということだと思います。 ↩︎

  3. 「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ 椎名美智,角川新書,第四章 ↩︎

  4. 敬語として長すぎることと、相手に別の意味に勘違いされてしまう恐れがあることから、当ブログでは文化庁の「敬語の指針」において適切だという説明のある使い方を推奨しています。
    詳しくは[[させていただく]]の記事をお読みください。 ↩︎

  5. 山崎久之, 待遇表現体系研究序説-5-謙譲語の研究–江戸時代上方語を中心として, 群馬大学紀要. 人文科学編 1960, p30 ↩︎

  6. 広辞苑 第七版、デジタル大辞泉 ver.3.2.0、スーパー大辞林 3.0 【何卒】の項 ↩︎