「宜しくお願い致します」は間違い?勘違いマナーについて



宜しくお願い致します」は正しい敬語です。
しかし、「間違った書き方なので失礼だ」と勘違いしている人もいます。

企業からのメールで使われ方を確認

皆さんのスマートフォンやパソコンのメールボックスで検索していただくと、大きな企業の自動返信などで来るメールには、
よろしくお願いいたします」か「よろしくお願い申し上げます」と記述されている場合がほとんどだと思います。

これには、

  1. 「宜しく」は常用漢字として書けない
  2. 「お願い致します」は公用文では推奨されていない書き方

という二つの理由があります。

「宜しく」は常用漢字として書けない

「宜」は常用漢字表には音読みしかなく、訓読みは出来ません

常用漢字表において、「宜」は「ぎ」という読み方しかなく、「よろ」という読み方は書かれていません1
そのため、常用漢字表の範囲内では「宜しく」とは書けません。

この常用漢字表は、文化庁が出した「一般の社会生活における漢字使用の目安2」なので、新聞やニュース、企業がお客様に向けて自動で送るメールのような、様々な人が読む文章において重視されています。

しかし、ほとんどの人が読めないような難しい漢字であれば分かりますが、「宜しく」は大人にとって読むことの難しい書き方ではなく、失礼と言うのは大げさです。

「宜しく」は当て字?

「宜敷」という昔流行った書き方があり、その「敷」の方は当て字です

「宜しく 当て字」でWeb検索をすると、
宜には「よろ」という読み方はなく、宜しくは当て字
という説明をしている記事がいくつか見つかります。

これに関しては誤りで、例えば漢文の教科書には「宜」という漢字は「宜しく〜すべし」の形で訓読すると書かれています3

また、その言葉が当て字かどうかは辞書に載っています。
特に広辞苑はその記載が多く、例えば、「流石(さすが)」「野暮(やぼ)」「兎に角(とにかく)」には「当て字」であるとの説明があります。
しかし、「宜しく」にはありません4

宜敷(よろしく)という、坂本龍馬も手紙で使用している5古い書き方があり、この「敷」の方が当て字という話と混同しているようです6

「お願い致します」は公用文では推奨されていない書き方

「お願い致します」の「致します」は、公用文ではひらがな表記にするように推奨されています

公用文の書き方を統一しようと、文化庁が「公用文作成の考え方7」という資料を作り、誰にでも見ることが出来る形で公開しています。

その中に「動詞・形容詞などの補助的な用法はひらがなで書くという決まりがあります8
これは、例えば「〜して行く」を「〜していく」に、「〜して頂く」を「〜していただく」とするように、他の動詞や形容詞に付ける補助的な語はひらがなに統一するというものです。
お願い致します」の場合は「願う」という動詞に「する」の謙譲語である「致す」という補助的な動詞がついています。
なので公用文では「お願いいたします」と書きます。

企業がこの規則に従う必要は無いのですが、「公用文作成の考え方」は読みやすさ、勘違いのされにくさを重視して作られているので、書き方の参考にするには良い資料です。
なので、「よろしくお願いいたします」の書き方を統一するための分かりやすい指標として選ばれやすいです。

「致します」に否定的な意味は無い

公用文の規則に則る書き方が増えた結果、「致す」は失礼というマナーが出現しました

「致す」という言葉は、少なくとも二つの辞書に否定的な意味があると載っています9

そのことがもとで、ある結果、特によくない結果を引き起こす。ある状態に立ち至らせる。
「私の不明の致すところ」

あることが原因となってよくない結果を引き起こす。
「これは私の不徳の致すところです」


これらの記載を理由に、「お願い致します」は失礼な書き方だと解説している記事がたくさんあります。

しかし、これは「不徳の致すところ」や「無知の致すところ」のように、
「引き起こした原因」 + の致すところと書かないと当てはまりません。
先ほど引用した辞書の用例には「〜の致すところ」という形式のものしかありません。

明鏡国語辞典には「〜の致すところ」という形式で用いると明記されています10

《「…の致すところ」の形で》それが原因となって、ある(よくない)結果を引き起こす。もたらす。招く。

ですから、「〜の致すところ」には否定的な意味がありますが、「致します」にはありません。

平安時代では、「致す」は現代語には無い「結果としてもたらす。ひきおこす」の意味でも用いられていました11
現代では唯一「〜の致すところ」の形でのみ残ったのだと考えられます。

「お願い致します」における「致す」は、単に「する」の謙譲語ですし、
「致す」には「心を尽くす」や「全力で事を行う」など肯定的な意味も載っています9

なので、「いたします」とひらがなで書く理由は「公用文で推奨されている書き方だから」以外ありません。

公用文でも「致す」を用いても良い書き方

公用文作成の規則では、補助的な動詞以外であれば漢字の「致す」でも構いません。
なので「〜を致します」や「〜に致します」といった書き方は問題ありません。

  • ご送付を致します
  • ご案内を致します
  • 尽力を致します
  • こちらからお話を致します
  • そのように致します

まとめ

宜しくお願い致しますは失礼というマナーは、誰かの勘違いによって生まれた、いわゆる嘘マナーです。

全く失礼ではなく、昔から使われている正しい敬語です。

しかし、どれほどの人が勘違いをしているのかは分かりませんが、
「宜しくお願い致します」でWeb検索をすると、失礼だと説明している記事が数多く見つかります。

ですから、現状では、特にこだわりがなく、会社や上司からの指示もなければ、
よろしくお願いいたします」と書いた方が無難だと思います。

とはいえ、「宜しくお願い致します」と書く人も多いですし、
こちらの方が「堅実な印象がある」などの理由で使用している人もいますから、利点・欠点を踏まえた上で決めることが一番です。

メールの場合、先方の書き方に合わせるという方法もあります。

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出典


  1. 常用漢字表 文化庁 ↩︎

  2. 常用漢字表 文化庁, p1
    原文は「一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」ですが、文脈に合わせて省略しています。 ↩︎

  3. 高校初級漢文 文英堂, p16-17 ↩︎

  4. 広辞苑 第七版 【さすが】【野暮】【とにかく】【宜しく】の項
    「宜しく」に関しては、デジタル大辞泉 ver.3.2.0 、スーパー大辞林 3.0、明鏡国語辞典 第三版でも「当て字」だという説明の無いことを確認 ↩︎

  5. 安政三年九月二十九日 相良屋源之助あて 坂本龍馬 ↩︎

  6. 「よろしく」を「宜敷く」と書くのは間違いですか? 漢字文化資料館 ↩︎

  7. 公用文作成の考え方(建議) 文化庁 ↩︎

  8. 公用文作成の考え方(建議) 文化庁, p11
    調べた限り最も古いものでは、1952年に政府が各省庁に通達した「公用文作成の要領」に類似の規則があります。
    公用文作成の要領 p7 ↩︎

  9. デジタル大辞泉 ver.3.2.0 、スーパー大辞林 3.0 【致す】の項 ↩︎ ↩︎

  10. 明鏡国語辞典 第三版 【致す】の項 ↩︎

  11. 広辞苑 第七版 【致す】の項
    いつから「結果としてもたらす。ひきおこす。」の意味で使われなくなったのかは未確認です。 ↩︎