「意見する」は「考えを言うこと」ではない。辞書の説明をもとに解説
実はいくつもの辞書に「意見」は「意見する」になると意味が変わるという説明があります。
辞書における「意見」と「意見する」の違い
四つの辞書で同様の説明があることを確認しましたが1、今回は例として広辞苑と大辞林の記載を引用します。
名詞としての「意見」には以下の説明があります。
思う所。考え。
「各人が意見を述べる」
ある事についてもっている考え。
「意見を述べる」「意見を聞く」「意見書」
一方、動詞の「意見する」では別の意味になります。
(「異見」とも書く)思う所を述べて人を諫めること。忠告。
「おやじに意見される」
道理や利害を説いて他人を戒めること。説教。
「どら息子に意見する」
つまり、名詞の「意見」は「考え」という意味なのに対し、動詞の「意見する」は「忠告する」や「説教する」、「諫める(いさめる)」といった意味になります。
とはいえ、「説教」の意味で「おやじに意見された」と言っても現代で伝わるとは思えません。
普通は「忠告された」か「注意された」のどちらかの意味に解釈されるでしょうから、「説教」は古い意味だと考えるのが妥当です。
ちなみに「諫める」は「目上の人に対して忠告する」という意味です2。
また、「忠告」は自分の「考え」を言うことの一つですから、「意見」は動詞になると意味が限定的になるとも言えます。
実際の使い方から違いを確認
次に、辞書の記載が本当に正しいとも限りませんから、普段「意見」と「意見する」をどのように使い分けているのかを考えてみます。
目下の相手(部下、後輩)から忠告された場合、好意的な意味で「○○に意見された」と言う人は滅多にいませんよね。
大抵は意見されたことを不快に感じているか、怒っています。
ところが「○○から聴いた意見」と言う場合は反対に、不快感を示すという意味が無くなり、むしろ参考になる考えを話す際に用います。
会議などで「もっとみんな意見しようよ」と言う人もいますが、省略された助詞を補って「もっとみんなで意見しようよ」と書くと変ですよね。
なのでここでの「意見しよう」は「意見を出し合おう」や「意見を挙げよう」などを略した形だと考えられます。
これらのことから、多くの人が名詞の「意見」と動詞の「意見する」を無意識のうちに使い分けていることが分かります。
「意見する」の敬語表現
忠告には「相手の誤りや良くない点を、相手のためを思って指摘する」といった意味があります3。
相手のためを思っての行為とはいえ、「相手の誤りや良くない点を指摘する」のですから、
失礼だと思われないように目上の人に意見する(忠告する)のは非常に難しいことが分かります。
こういった事情があるせいか、「意見する」の敬語表現は「意見します」か「意見いたします」くらいしかなく、敬意の高いものはありません。
日本語は良く用いる言葉が発展していきますから、そもそも目上の人に「意見します」と言う状況が無かったのだと思います。
その反面、目上の人に「自分の考えを述べる」状況は多いためか、「意見を言う」の敬語表現は多岐に渡ります。
前述した通り、「忠告する」ために意見を言うこともありますから、「意見する」場合もこちらを用いることになります。
「意見を言う」の敬語表現
「言う」を謙譲語の「申し上げる」にした「意見を申し上げる」と言うことで敬意の高い敬語表現に出来ます。
他には「目上の人に意見を申し上げる」という意味の「進言する」という敬語があります4。
単に「進言します」でも敬意を示せますし、「進言いたします」と言うと敬意が増します。
頭に「恐れながら」を足して「恐れながら進言します(いたします)」と言うことも多いです。
「意見」の謙譲語は「私見」「愚見」「浅見」がありますが、目上の人に「愚かな意見」を言うとむしろ怒られそうですよね。使いどころの難しい敬語です。
どれも相手に敬意を示す意味を持たない丁重語で、主に相手から意見を求められた際に用います。
例えば、前置きとして「私見ですが」や「愚見で恐縮ですが」と言うと、相手や他の人の意見と比べ、自分の意見は大したことではないという意味になり、謙虚な姿勢を表せます。
「意見」という言葉を必ずしも入れる必要はありません。
また、様々な敬語を組み合わせて丁寧さを増すことも出来ます。
例えば「少し気になる点がございまして、恐縮ながら申し上げてもよろしいでしょうか」という長い言い方は、「意見を言っても良いですか」の言い換えです。
「少し」を「少々」に、「恐縮」を「僭越」にしても良いですし、もっと短くしたり、更に長くしたりして丁寧に言うことも可能です。
以上、いくつかの敬語表現を挙げましたが、「忠告する」と「考えを述べる」のどちらの意味においても、「目上の人に時間を取らせる」という点で迷惑をかけることは変わりません。
無難な言い方というものが存在しないため、相手との関係性や状況に応じた、適切な言い方を考えることが大切です。
ちなみに謙譲語に「ご〜する」という形がありますが、「ご意見する」と言うことは出来ません。
また、「ご意見」は尊敬語なので、自分の考えに対して「ご意見を言う」と言うのも誤りです。
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出典
広辞苑 第七版、デジタル大辞泉 ver.3.2.0、スーパー大辞林 3.0、明鏡国語辞典 第三版 【意見】の項 ↩︎
広辞苑 第七版、デジタル大辞泉 ver.3.2.0、スーパー大辞林 3.0 【忠告】の項 ↩︎
広辞苑 第七版、デジタル大辞泉 ver.3.2.0、スーパー大辞林 3.0 【忠告】の項
実際の記載は「まごころをもって他人の過失・欠点を指摘して戒めさとすこと。」などですが、記事中の文脈に合わせた書き方にしています。 ↩︎広辞苑 第七版、デジタル大辞泉 ver.3.2.0、スーパー大辞林 3.0 【進言】の項
実際の記載は「上位の者に意見を申し述べること。」などですが、記事中の文脈に合わせた書き方にしていま ↩︎